「なわばり」と「ニッチ」
森田療法でいう「生の欲望」の考察。
マクリーンのよると、大脳の進化は、爬虫類から始まって前期哺乳類を経て、哺乳類から人間に至るという。そして進化の過程で人間の前脳は、爬虫類、前期哺乳類、新哺乳類から解剖学的、生物学的構成を引き継いだ三つの基本構造を発達させた。それが三位一体脳である。
そうならば、「生の欲望」が元々存在する脳はどこなのか?
動物でもよりよく生きやすいような生活を目指している。例えば、イヌが北海道の厳寒期に散歩に行くのをいやがるように。トカゲでも捕食されないように懸命に生きている。とすると、やはり元々は「生の欲望」は爬虫類脳(反射脳)にあるのかもと考える。
その爬虫類(トカゲ)の行動を研究して、人間の行動と比較しているのがマクリーンである。
マクリーンの考察とともに、「生の欲望」を賦活する方法を考えてみる。
その一つが「なわばり」である。
人間が本来なわばりを求める動物であるかどうかについては、長い論争がある。動物行動学では、特定の空間を守る決意の表明がなわばり行動である。
三つの脳の進化 反射脳・情動脳・理性脳と「人間らしさ」の起源 ポール・D・マクリーン 著 法橋 登 編訳・解説 P82
クロトカゲは食物事情によってなわばり行動をとったりとらなかったりする。熱帯に棲むサルや類人猿は牧牛のように食物を求めて移動する。この場合でもホエザルやチンパンジーやゴリラは、なわばりとともに移動し同類の仲間の侵入を許さない。この移動するなわばりをカルホーンは“観念空間”と呼んだ。サバンナに棲むヒヒは特定のなわばりをもたないが、好まない接近者には激しく攻撃する。
三つの脳の進化 反射脳・情動脳・理性脳と「人間らしさ」の起源 ポール・D・マクリーン 著 法橋 登 編訳・解説 P83
人間による記号の発明は“観念空間”の境界をかぎりなく拡大させた。米軍がベトナムの森に数マイルにおよぶ数字の“1”を描いたように、記号自身が拡大することもある。またわれわれ自身の所属物である家の境界をこえて、街、学校、教会、市、県、州、国から海域、さらに現代では宇宙にまで人間のなわばりが拡がっている。また、同じ会社のセールスマン同士が受け持ち地域の重なりと避けるように、教師や科学者たちは研究領域をかぎって名声の競合を避けようとする。人間がもしなわばり行動に関して白紙で生まれたとすると、人間が自分の領分に対してここまで敏感であることや、土地や財産の所有をめぐる紛争を調停するためのこれほど多くの法律や制度があることが理解できない。
三つの脳の進化 反射脳・情動脳・理性脳と「人間らしさ」の起源 ポール・D・マクリーン 著 法橋 登 編訳・解説 P84
人間生活にも「なわばり」はある。ただ、その拡がりは物理的なものだけではなく、いわゆるサイバー空間にも広がっている。「あつまれ、動物の森」が良い例である。
現在、生きづらい人がいたとしよう。「なわばり空間」が狭いのかもしれない。「なわばり空間」を持たせるということが、「生の欲望」の賦活につながるのではと思う。そこで考えるのがニッチな分野である。その隙間の中でも、大きな空間に拡がることもあると思う。