ある感情を感じたときに「行動」を変えるには
森田療法では、「感情が出てくるのを抑えることは難しいので、その感情を感じたときの行動を変えましょう」と指導することが多い。ただ、必ずしもうまくいかないのも事実である。うまくいかないときには「嫌な感情が出てきたときは、一拍おいて行動しましょう」と話すこともある。そのことについてのヒントがここにある。
その後、神経科学的な研究によって、人には二つの異なるかたちの自己認識があることが明らかになっている。時間に沿って自己をたどっていくものと、今この瞬間における自己を捉えるものだ。一つ目の自伝的な自己は、経験どうしを関連づけて、首尾一貫した物語にまとめる。このシステムは言語に根差している。私たちの物語は語ることによって変化する。物の見方が変わり、新しい情報が組み込まれるからだ。二つ目の、その瞬間における自己認識のシステムは、おもに身体的感覚に基づいているが、私たちは、安全で、急き立てられていないと感じていれば、その身体的体験を伝えるための言葉を見つけることもできる。二つの認識システムは脳の別々の領域に局在しており、それらの領域どうしの接続はほとんどない。そして、内側前頭前皮質に基盤を置く、その瞬間における自己認識システムだけが、情動脳を変えることができる。
身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法 ベッセル・ヴァン・デア・コーク 著 柴田裕之 訳 P387~388
身体感覚は感情を生み出す。ここで「安全で、急き立てられていない」場合に、言語化でき、さらには「行動」を変えられる可能性が高い。急き立てられないように一拍空ける(時間を取る)のだ。とすると、「安全で、急き立てられていない」というのが必要条件の一つになる。