ソフトゾーンとハードゾーン
無所住心に似ている概念の話。
ジョッシュ・ウェイツキンはチェスと太極拳の世界的な名手。森田療法を使うときのヒントが著書にはたくさんある。
たとえば、気を散らされまいと神経質になって指で耳をふさぎ、身体を硬直させていたとしたら、その際に心理状態は、自己の能力を機能させるために協力的な環境を必要とする状態、いわゆる「ハードゾーン」にある。これはちょうどカラカラに乾燥した小枝のように、とても脆く、圧力を受けるとすぐに折れてしまうような状態だ。もう一つの心理状態は、静かに深く集中し、外見的には穏やかな表情でリラックスしているものの、心の中では精神的活力が渦巻いている状態だ。どんな事態が起こったとしても、その心理状態のまま意識が流れ続け、生活上のどんなざわめきでさえも、創造力に富んだ一瞬一瞬に組み入れて利用することができる。このソフトゾーン状態の弾力性は、たとえばハリケーンの強風にさらされても、それに合わせてしなやかに動いて生き延びる草の葉に似ている。
習得への情熱-チェスから武術へ― ジョッシュ・ウェイツキン 著 吉田 俊太郎 訳 P69
このソフトゾーンという概念が森田の言う無所住心に違いないと思う。
無所住心とは、吾人の注意が、或る一点に固着、集注することなく、而かも全精神が、常に活動して、注意の緊張、遍満して居る状態であらうと思はれる。此状態にありて、吾人は初めて、事に触れ、物に接し、臨機応変、直ちに最も適切なる行動を以て、之に対応することが出来る。
森田正馬全集 第二巻 P344 神経質の本態及療法