ダマシオの仮説構築のきっかけを簡単にまとめてみた
アントニオ・R・ダマシオは、脳科学ではよく例に挙げられるフィネアス・ゲージをはじめ脳の特定部位に損傷があった事例を研究し、推論と意思決定の後天的障害をもつ患者にはつねに脳システムの特定の一群(前頭前腹内側皮質、扁桃体、右半球体性感覚皮質複合体など)が損傷していることを確認しました。これらの障害は特に個人的社会的な面において著明でしたが、基本的注意、記憶、知性、言語などの障害はもたらしてはいませんでした。そしてさらに、その障害が情動的反応と感情の衰退を伴っていることに気が付いたわけです。ここで情動的反応と感情の衰退が、不合理な行動に対する重要な原因になっている可能性があると考え、仮説を立てました。
ここで注目すべきところは、理性が情動や感情を抑制しているという伝統的な考えかたに反して、理性、すなわち推論や意思決定をすることに情動や感情が関係しているのではとダマシオは考えたわけだそうです。
「デカルトの誤り 情動、理性、人間の脳」 アントニオ・R・ダマシオ著 田中 三彦訳 より
※この内容については第34回日本森田療法学会で発表した。