トップダウンとボトムアップ
PTSDでは、扁桃体(煙探知機)と内側前頭前皮質(監視塔)との間にきわめて重要な均衡が根本的に変化し、その結果、情動と衝動の制御がはるかに難しくなる。非常に情動的な状態にある人間の神経画像研究からわかったのだが、強烈な恐れや悲しみ、怒りはみな、情動に関与する大脳皮質下の脳領域をより活性化させ、前頭葉のさまざまな領域、とくに内側前頭前皮質の活動を大幅に低下させる。そうなると、前頭葉の抑制能力が損なわれ、人は正気を失う。何であれ大きな音に反応して驚いたり、些細な欲求不満で激怒したり、誰かに触れられて凍りついたりする。
身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法 ベッセル・ヴァン・デア・コーク 著 柴田裕之 訳 P105
ストレスに効果的に対処するためには、煙探知機と監視塔との間の均衡を達成する必要がある。自分の情動をもっとうまく管理したければ、脳は二つの選択肢を与えてくれる。トップダウンあるいはボトムアップで情動を調節する方法を学習することができるのだ。トップダウンとボトムアップの調節の違いを知ることは、トラウマ性ストレスの理解と治療の要だ。トップダウンの調節を行うには、体の感覚を監視する監視塔の能力を強化しなければならない。マインドフルネス瞑想やヨーガはその役にたつ。ボトムアップの調節を行うには、自律神経系(すでに見たとおり、脳幹に端を発する)の再調整を必要とする。自律神経系には、呼吸や動き、接触を通してアクセスできる。呼吸は、意識的な制御と自律神経系の制御の両方の支配下にある、数少ない身体機能の一つだ。
身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法 ベッセル・ヴァン・デア・コーク 著 柴田裕之 訳 P105
ストレス反応についての対処方法についてヴァン・デア・コークはこう述べている。森田療法でも、まず「感情の自覚と受容を促す」ことをする。森田の心身同一論により、身体の変化は感情の元となる。感情の変化を身体の感覚で感じる。「あるがまま」に受け止めることで、環境との正しい向き合い方ができる。それから意識的に「建設的行動をする」ことで、前頭前皮質の能力を維持し、情動脳をコントロールする。ここまでがトップダウンであるが、ボトムアップでも、結局、行動することで、自律神経の変化も生み出し、最後に「自我の変化」を起こすことになる。