トラウマと日常生活
私たちは何よりまず、患者が現在をしっかりと思う存分生きるのを助けなくてはならない。そのためには、トラウマ体験に圧倒されたときに患者を見放した脳の組織が働きを取り戻すように支援する必要がある。脱感作によって過敏な反応は減るかもしれないが、散歩をしたり、食事を作ったり、子供たちと遊んだりといった、日常のごく当たり前のことに満足を感じられなければ、人生に置き去りにされてしまうからだ。
身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法 ベッセル・ヴァン・デア・コーク 著 柴田裕之 訳 P122
森田療法では、症状についてどうするというよりも、実際に生活をすることに重点を置いているような印象がある。できるだけ現在の生活を維持しながら治療を行っていく。
「生の欲望」があるからこそ、競争に勝とうとする。そちらに注意や集中を奪われると、現在の生活の大切さが希薄化する。ただ日常生活の繰り返しだけでは、人間は生きてゆけない。そのバランスが難しい。
先日、TVで東日本大震災がテーマの番組があった。その中で家族を津波で亡くした方が、日常生活の大切さについて話していた。その主旨は、「その日もいつもと同じように家族と一緒の生活が送れると信じていたのに、そうではなかった。あの楽しい家族との生活は実は奇跡だったと思う」であった。
ヴァン・デア・コークは引用のように、日常生活がトラウマによって失った脳の働きを取り戻すのに有効としている。トラウマだけではなく、不安にとらわれた人にも同じことが言えるのではと考える。