トラウマ修復3つの方針
トラウマの根底にある基本的プロセスについての知識がこのように途方もなく増えたおかげで、心の痛手を和らげるばかりか、修復さえする可能性も開けた。今や私たちは、脳そのものが本来備えている神経可塑性を利用する手法を開発したり体験を考案したりしてサバイバーを助け、彼らが今このときに思う存分生きていると感じ、自分の人生を歩んでいけるようにすることができる。それには基本的に三つの方法がある。(1)他者と話し、(再び)つながり、トラウマの記憶を処理しながら、自分に何が起こっているのかを知って理解するというトップダウンの方法。(2)不適切な警告反応を抑制する薬を服用したり、脳が情報をまとめる方法を変えるような他の技術を利用したりする方法。(3)トラウマに起因する無力感や憤激、虚脱状態とは相容れないと体の芯から感じられる体験をすることによるボトムアップの方法。
身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法 ベッセル・ヴァン・デア・コーク 著 柴田裕之 訳 P14
ヴァン・デア・コークのトラウマの対する3つの方法は森田療法の技法論と比較すると興味深いものがある。
1)他者と話し、つながり、自分に何が起こっているのかを知って理解する ⇒森田療法では、心の働きの理解として感情の法則を説明したり、思想の矛盾で誤って理解していることを指摘したりするトップダウンの方法である。普遍化もそういうことであろう。精神分析もこの範疇に入るではと考える。「心の整理に役立つ」
2)不適切な警告反応を抑制する薬を服用したり、脳が情報をまとめる方法を変えるような他の技術を利用したりする⇒これはもちろん薬とEMDR、マインドフルネスを指しているのだけれど、森田療法との併用を勧める人もいれば、嫌がる臨床医もいる部分である。
3)体の芯から感じられる体験をすることによるボトムアップの方法⇒森田療法では、努力即幸福とか、恐怖突入とか行動することによって心の部分に変化を与えようとする。その根拠が心身一体論である。ただ、ヴァン・デア・コークが考えるトラウマの治療法と違って、日常的な地味な体験でも効果があると私は思う。