退屈
反射脳と情動脳には定型的な刺激の反復や持続に退屈するはたらきもある。爬虫類の衝動的な集団移住や哺乳類の疑似狩猟行動や、母子間や子ども同士のアソビやフザケがその例である。反射脳と情動脳をもたない計算機は退屈しない。退屈は好奇心と創造活動と表裏の関係にある。
三つの脳の進化 反射脳・情動脳・理性脳と「人間らしさ」の起源 ポール・D・マクリーン 著 法橋 登 編訳・解説 P297
マクリーンは進化の過程で人間の前脳は爬虫類脳である反射脳、哺乳類脳である情動脳、そして新哺乳類である理性脳の三つの基本構造があることを想定した。そしてその三つの脳は、それぞれ独立して働くこともできるし、全体での処理することができる三位一体脳を考えた。
森田療法でも退屈(無聊)は入院森田療法で出てくる。
第4日は、患者の前のような消極的の苦痛を離脱して、無聊を感ずるやうになり、積極的に活動したいといふ欲望を起して、希望の苦痛となるのである。此時期を仮に無聊期と名づける。
森田正馬全集第二巻 P351 無聊期
此方法の目的とする所は、患者の種々の病覚は、其まゝ静かに之に耐え忍ばせる事と、一方には、患者の心身を無聊ならしめて、以て其自発的活動即ち運動作業を促すにありて、決して注入的、他動的に、作業を課するといふことをしない。
抑も吾人の活動欲は、食欲と同じく、自然本能的の衝動であって、小児の自然に於て、最も明らかに之を認めることが出来る。然るに従来の作業療法は、単に其種類と時間とを選別して、之を患者に課し、未だ患者の自発的作業欲を亢進させるといふことに、注意を払ふことがなかったのである。
此療法による無聊といふことは、患者をして、一見全く無価値はやうな事にも、容易に手を下して実行するやうにならせるものである。
森田正馬全集第二巻 P353~ 第二期 軽き作業期
すなわち、森田療法はマクリーンのいう情動脳や反射脳に働きかけていることがわかる。それは、動物的な「生の欲望」なのであろう。ここでもマクリーンのいうように“退屈は好奇心や創造活動と表裏の関係”なのだ。