強迫観念と強迫行為
反射脳障害による精神障害の例として、日常生活における定型行動の喪失や意味のない強迫行為をマクリーンは指摘している。
13歳になる少女の例では、顔と顎に筋肉のけいれんがあらわれ、少女は病的な定型行動に固執した。彼女は下着を着る前に数を数え続け、下着を身に着けるのに苦労した。歯を磨いたあとは100まで数え上げなければならなかった。髪の毛は先端以外にはブラシをかけなかった。家の中に入るのは必ず裏戸からであり、ノックも近くの窓ガラスの特定の位置にかぎられ、回数は三回にきまっていたあ。ドアも鍵が開く前に三回ノックした。夜ベッドに入ると彼女は足を上げ、ドアのふちを九度たたいた。
三つの脳の進化 反射脳・情動脳・理性脳と「人間らしさ」の起源 ポール・D・マクリーン 著 法橋 登 編訳・解説 P73
これはサイデンハム症の例ということだが、森田はその著書で強迫観念と強迫行為ということの鑑別を示している。
斯様に強迫観念と強迫行為とは表面的には互に相似て居り共通の点もあり、又互に移行するものであるけれどもその心理の内面的には又大なる相違がある。強迫観念に限らず神経質の患者は総て異口同音に常に「自分は他人から見れば病気らしくも何ともなくて、心の内にはやるせない苦痛に悩まされて居る、誰も自分を理解して呉れる人がない」とかいって、かこつのである。即ち強迫観念にはこの「人の知らない苦労」といふ主観的内面的の苦悩があって客観的実際的の事実としては現はれない。これに反して強迫行為の方は他人から見て立派な奇行変態であって而かも本人の自覚的苦痛は極く軽微である。精神内部の葛藤がない。これが彼の緊張病に於ける衝動性の常同行為と共通の心理である。而して緊張病ではその動機が不明瞭であり殆ど無意識的不随意的である。強迫行為もその初めは動機が明かであるけれども後には殆ど衝動的となり訳なしにやるやうになる。而かも緊張病と強迫行為とはその病の本態性質が異って、強迫行為は意志薄弱という先天的変質的素質から起るのであって緊張病のやうに痴呆に陥ることはない。
森田正馬全集 第二巻 P46
森田療法で扱う強迫は主として強迫観念である。観念は理性脳すなわち大脳新皮質と関連する。それと違って、より原始的な反射脳自体に問題があるよう場合は、治療が困難であると書いている。ただ、その強迫観念と強迫行為のなかで移行するものもあるということである。