「精神交互作用」とダマシオ仮説
参照)森田療法を超簡単にまとめてみた(1)、ダマシオの一次の情動と二次の情動
「思想の矛盾」について「ダマシオの生命調節の仮説」で説明できる可能性を書きましたが、今回は「精神交互作用」についてです。「生の欲望」についてはこの投稿を参照してください。
森田正馬は精神交互作用にこう書いています。
神経質に於ける余のいわゆる精神交互作用は、吾人が或る感覚に対して、之に注意を集注すれば、其の感覚は鋭敏となり、この感覚鋭敏は、更に益々注意を其方に固着せしめ、此感覚と注意が相俟ちて交互に作用して、以て其感覚を益々強大にするといふ事の精神過程に対して名づけたものである
森田正馬全集 第二巻 P290 神経質の本態及療法 から
ダマシオの仮説ではどう書いているか?
完全な意味でのソマティックマーカー仮説において私は、ネガティブなものであれポジティブなものであれ、ある表象によってもたらされた身体状態は、表象されているものの価値に対するマーカーとしてだけはなく、ワーキングメモリと注意を継続させるためのブースターとしても作用していることを提案している
デカルトの誤り 情動、理性、人間の脳 アントニオ・R・ダマシオ著 田中 三彦訳
ちくま学芸文庫 P306~307
神経質でなくても、ある表象によってもたらされた身体状態(身体状態の感覚)は、その表象に対してのワーキングメモリ・注意を継続させるためのブースターとなっているとしたら、森田の「精神交互作用」を理解しやすい。
結局、身体的情動に含まれる身体状態は、行動の準備であるかどうかにかかわらず、外界の対象の価値を反映し、その価値に見合うだけの動機付けの力を持っていると考えられる
東京大学教養学部哲学・科学史部会 哲学・科学史論叢第十三号 平成23年3月(77-101)
身体状態と意思決定 西堤 優
ある表象の価値評価をすることによって創りだされた身体的情動は、その表象に対して注意を継続させるだけではなく、認知も変化させ、さらなる行動を起こす動機付けの力も持つ。
最初の価値評価が誤っているとすれば、引き起こされた行動は、周囲の環境に見合わない行動となる可能性が高い。誤った価値評価から誘発された行動は森田療法では「はからい」というのではないだろうか。
※この内容の一部については第34回日本森田療法学会で発表した。