感情の法則とワーキングメモリ
感情の方則(感情の法則)は森田が考えた感情の生理学的な特徴とも理解していいと思う。「神経質ノ本態及療法」では、第一から第五までの方則をあげているが、その中で一番有名なものは第一である。
第一 感情は、之を其まゝに放任し、若くは其自然発動のまゝに従へば、其経過は山形の曲線をなし、一昇り一降りして、遂に消失するものである。
森田正馬全集、第二巻、P345、神経質ノ本態及療法 から
同じようなことがワーキングメモリの書籍にある。
それに対して、ワーキングメモリは、高次認知活動に必要な情報を一時的の保持し、処理するメカニズムを含むシステムであるとされる。最近のバッドリーのモデルによれば、ワーキングメモリは制御システムである中央実行系と従属システムである音韻ループ、視空間スケッチパッド、そしてエピソードバッファーから成るとされる。音韻ループはさらに情報を保持するための音韻ストアとリハーサル過程から成る。言語的な刺激は通常音韻ストアにおいて音韻コードとして表象されるが、それは時間が経つにつれて減衰する。そのためリハーサル過程は音韻ストア内で消失しかけている表象を音韻コードを繰り返すことで再活性化させる。視空間スケッチパッドは視空間情報を保持するシステムである。視空間情報を貯蔵する視空間ストアは右半球の後部頭頂葉に関係するとされるが、言語的情報と同様、時間とともにまたは新たな外界からの刺激が入ってくるにつれて減衰する。ここにおいて、空間情報のリハーサルは空間的注意の継続的な焦点化であるとされる。
社会脳シリーズ3 注意をコントロールする脳 苧阪直行編 P52
感情という場合、「ある対象」についての感情の場合が多い。その対象を心の中で保持しておくのが、ワーキングメモリの役目と言える。そのままリハーサルもしなければ減衰していくというのは、まさに感情の方則の第一に似ていると思う。